整理解雇の進め方

5分で分かる!整理解雇の方法・進め方(書式あり)

整理解雇は、人員整理の最終手段ですが、整理解雇4要件による厳格な規制がなされており、方法を誤ると労働者より解雇の無効賃金(バックペイ)の遡及支払い損害賠償(慰謝料)などを請求される高いリスクを負います。他方で、会社の再建のためには毅然とした対応で整理解雇を断行せざるをえない場合もあります。そこで、今回は整理解雇の進め方について説明します。

1 整理解雇とは?

整理解雇とは

整理解雇とは,使用者側の経営事情等により生じた従業員数削減の必要性に基づき労働者を解雇することをいいます。あくまでも使用者の経営上の理由による解雇で,労働者にその責めに帰すべき事由のないものであり,普通解雇の一種です。

整理解雇の4要件(要素)

整理解雇が有効となるには、次の4つの要件(要素)が必要です。

  1. 人員削減の必要性が存在すること(人員削減の必要性)
  2. 解雇を回避するための努力が尽くされたこと(解雇回避努力)
  3. 解雇される者の選定基準及び選定が合理的であること(被解雇者選定の合理性)
  4. 事前に,説明・協力義務を尽くしたこと(解雇手続の妥当性)

① 人員削減の必要性が存在すること(人員削減の必要性)

まず、人員整理をすることが、企業の合理的運営上やむを得ない必要性があることが要件となります。

どの程度の必要性が必要なのかが問題となりますが、倒産必至,債務超過,累積赤字といった事態にあることまでは必ずしも要求されません。黒字経営の中で経営合理化や競争力強化のために行う人員削減についても,会社の経営判断を尊重して肯定する例が多くあります。もっとも、①の人員削減の必要性の要件が「否定されない」というだけであり、①の必要性が弱い場合は、その分②~④の要件が相対的に厳しく問われると考えた方がよいでしょう。整理解雇が有効か否かは①~④を総合して判断されるのです。

なお、新規採用等,人員削減の必要性と矛盾する行動があった場合には,①人員削減の必要性は否定される傾向がありますので注意が必要です。

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人員削減の必要性とは

② 解雇を回避するための努力が尽くされたこと(解雇回避努力)

解雇を回避する方法として、以下のような方法があります。

新規採用の停止、役員報酬のカット、昇給停止、賞与減額・停止、残業規制、人件費以外の経費(広告費,交通費、接待交際費等)削減、非正規従業員の雇止め、余剰人員の配転・出向・転籍、一時帰休、ワークシェアリングなどにより経費・人件費の抑制及び削減に努める。

それでも、会社の運営上人員整理が必要な場合は、希望退職募集、退職勧奨を実施して任意の退職を求める。

これらの方法を可能な範囲で実行していることが必要となります。もっとも、これら全ての方法を無理して実行し、却って会社の資金繰りが悪化したり、倒産してしまっては本末転倒です。

全て行うことまでは要求されません。会社の規模、業種、人員構成、労使関係の状況などに照らし、現実的に可能な方法を行えばよいとされています。

また、一般的には、希望退職募集や退職勧奨で任意に退職する方法を実施し、それでも目標の人員削減数に達しない場合に、最終手段として整理解雇を実施します。

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③ 解雇される者の選定基準及び選定が合理的であること(被解雇者選定の合理性)

客観的合理的で、かつ、公平な基準で選定されていることが要求されます。

選定基準としては、「勤務成績」「人事考課」「年齢」「勤続年数」「扶養家族の有無」などがあります。病気欠勤や傷病休職をしていたことも基準としては認められます。

このような様々な基準のうちいずれを選択するかは当事者に委ねられており、設定された基準が違法ではなく,恣意的ではない客観的基準であれば認められます。

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整理基準とは

④ 事前に,説明・協力義務を尽くしたこと(解雇手続の妥当性)

整理解雇をするにあたり、会社の状況(人員削減の必要性)、これまでの経緯(解雇回避努力)、人選基準等や解雇の時期・規模について、従業員・労働組合に十分な説明をし、協議することが必要となります。

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解雇手続の妥当性とは

整理解雇の進め方

整理解雇は上記4要件を満たすような形で進める必要があります。具体的には、以下のように流れになることが一般です。

整理解雇_流れ

事前準備

人員削減の必要性を確認

整理解雇を有効に進めるためには、①人員削減の必要性を確認する必要があります。その際、実務的には、過去3期から5期分の貸借対照表や損益計算書を分析すると共に、今後の事業再建(改善)計画を綿密に構築することになります。適宜外部の専門家の意見を取り入れながら、事業再建計画を綿密に構築し、人員削減目標を策定します。

これらの計画は、人員整理の施策を実行する策定します。人員整理施策を上記のとおり希望退職募集・退職勧奨の実施を先行させ、最後に整理解雇を実施するスケジュールの場合は、希望退職募集の前の段階で人員整理計画を策定する必要があります。整理解雇を実施する段階で検討することは通常あり得ません。

退職(整理解雇)の対象者の人選

整理解雇が有効となるためには 整理解雇対象者の人選の合理性 が問われます。人選が合理的であるためには、事前に定立した合理的な基準に基づいて人選を行う必要があります。

この人選基準は,整理解雇の段階で作成するのではなく、人員整理策の当初に策定する必要があります。例えば、人員整理として、希望退職の募集 → 退職勧奨 → 整理解雇 の流れを予定している場合は、希望退職の募集の準備段階で、整理対象の人員を選別する基準を定立する必要があるのです。

人員整理施策の最初から人選基準を定立することによって、希望退職募集の段階から一貫した基準で対応することができ、会社の人員整理策の合理性を高めることができます。ひいては、最終的に実施する整理解雇の有効性を高めることにもなります。希望退職・退職勧奨・整理解雇の各場面で人選基準がバラバラであったとすると、整理解雇の際の人選基準には合理性はなかったと判定される可能性が高まるのです。

解雇回避の為の諸施策の実施

整理解雇の有効性を満たすための4要素の一つである ② 解雇回避努力としては、営業上の努力(計画見直し含む)、諸経費節減、不要資産処分、役員報酬カット、新卒採用の見送り、配置転換、出向、一時帰休、残業規制、昇給停止、賞与の削減、貸金カットがあります。

これらの経費削減策は、人員整理の前の段階から、随時かつ同時並行で実施しておく必要があります。人員整理の段階で慌てて実施するものではありません。また、前記のとおり現実的に可能な施策を実施すれば足り、財務状況・資金繰りを一層悪化させるような施策を無理して行う必要はありません。

人員整理の説明・協議

整理解雇の有効要件である ④説明協議義務を尽くすこととは、整理解雇をするにあたり、会社の状況(人員削減の必要性)これまでの経緯(解雇回避努力)、人選基準等や解雇の時期・規模について、従業員・労働組合に十分な説明をし、協議することをいいます。

この説明・協議についても、人員整理計画の最初から行います。希望退職の募集 → 退職勧奨 → 整理解雇 の流れを予定している場合は、希望退職の募集の段階で、従業員あるは労働組合に対して、会社の状況、経緯、人選基準等、整理解雇を含めた時期について、説明及び協議をする必要があります。

希望退職募集・退職勧奨の実施

② 解雇回避努力として、もっとも重要なものとして希望退職募集及び退職勧奨が考えられます。したがって、まずはこれら施策を十分に検討し、可能な限り実施する必要があります。

希望退職募集・退職勧奨を、整理解雇を視野に入れて、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③人選の合理性、④説明・協議をしっかりの対応頂くことが、整理解雇の有効性にとって重要となります。整理解雇を実行するのは、最終段階になりますので、その段階でやるべきことは多くはありません。

詳細な進め方や書式の説明を下記記事で行っていますので、整理解雇を有効に行うために是非ご参照ください。

希望退職募集・退職勧奨の実施は

整理解雇の実施

希望退職の募集や退職勧奨によっても削減人数に満たない場合は,やむをえず,事前に定立した人選基準に従い,整理解雇を断行することになります。

解雇の一般的な手続の履践

整理解雇は普通解雇の一種ですので、普通解雇のための手続を履践する必要があります。

決定した解雇を当該社員へ文書により通告します。

参考記事
・経営者必見 すぐわかる解雇を通知する方法【書式・ひな形あり】
・経営者必見!解雇予告・解雇予告手当のポイント
・10分でわかる!解雇予告除外認定のやり方【書式・ひな形あり】

整理解雇の解雇通知書

整理解雇通知書(シンプル版:即日解雇で解雇予告手当を支払う)

令和4年6月10日

甲野 太郎 殿

○△商事株式会社
代表取締役○野△太郎

解雇通知書

現在の当社の業績不振による業務縮小のため、誠に遺憾ではありますが、貴殿を○年○月○日付をもって就業規則第○条により解雇といたしますので、本書により通知します。

なお、解雇予告手当金は、貴殿の給与振込口座に送金いたします。

以上

解雇通知書(解雇理由を具体的に記載)

令和4年6月10日

甲野 太郎 殿

○△商事株式会社
代表取締役○野△太郎

解雇通知書

 貴殿を○年○月○日日付をもって下記の理由により就業規則第○条により解雇といたしますので、本書により通知します。なお、解雇予告手当金は、貴殿の給与振込口座に送金いたします。

 すでにご承知のとおり、当社は、国内の競業企業との競争激化に加え、近年では廉価販売を行う中国企業との厳しい価格競争に巻き込まれ、受注数量の低迷及び販売価格の過当競争による低迷となり、その結果、当社損益は5年連続の赤字であり、別途積金や内部留保の取崩しによって経営を維持しております。当社は、代表者個人資産の売却及び当社への貸付け、役員報酬の大幅な減額、非正規社員の削減など経費削減に努めてまいりましたが、当社を取り巻く上記経営環境の中では大きな改善とはなりませんでした。そこで、苦渋の選択ではありますが、○年○月より当社○○事業を縮小することを決定いたしました。

そして、当社存続のためには、人員整理を実施せざるを得ない状況となり、○○年○月○日から○月○日まで、希望退職の募集を行って参りました。当初の希望退職の目標人数は○○人でしたが、これに応じていただける方は○○人であり、その後、○○年○月○日から○月○日までの期間に個別に退職勧奨を実施いたしましたが、結果として、必要人数に達しませんでした。当社は希望退職募集及び退職勧奨において、出来うる限りの優遇条件を提案させて頂きましたが、貴殿は、いずれも応じて頂けませんでした。

そこで、やむを得ず、貴殿は当社が定めた被解雇者の選定基準に合致するため、当社は就業規則第○条○項に基づき解雇いたします。

以上

まとめ

以上お分かり頂けましたでしょうか。

今回は、整理解雇の進め方について説明させて頂きました。

整理解雇は、人員整理の最終手段ですが、整理解雇4要件による厳格な規制がなされており、方法を誤ると労働者より解雇の無効賃金(バックペイ)の遡及支払い損害賠償(慰謝料)などを請求される高いリスクを負います。他方で、会社の再建のためには毅然とした対応で整理解雇を断行せざるをえない場合もあります。

整理解雇はあくまでの最終手段です。それ以前の事前準備、希望退職募集・退職勧奨の実施のプロセスを正しく行うことこそが整理解雇の有効性を支えるといっても過言ではありません。

希望退職募集・退職勧奨の実施については、以下の記事をご参照ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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