経歴詐称で懲戒解雇できるか?知っておきたい調査・処分決定のポイント

ご質問

当社で中途採用した社員がおります。当該社員の仕事ぶりに問題はなかったのですが,今般,採用時に提出していた職務経歴書の一部に偽りがあったことが判明しました。偽りがあった経歴の部分については,当該社員を採用する際に重視しておらず,仮に真実の経歴を記載したとしても採用時の賃金や職種には影響はなかったのですが,経歴詐称をしていたことそれ自体が重大な背信行為であると考えています。
当社では,懲戒解雇事由として,「労働契約締結時に,最終学歴や職歴等,重大な経歴を偽り,会社の判断を誤らしめたものは,懲戒解雇とする」旨規定しています。
そこで,当該社員を懲戒解雇することは可能でしょうか?また,調査や処分決定のポイントについても教えてください。

回答

経歴詐称が懲戒事由に該当するかどうかは,詐称の内容や当該労働者の職種などに即して具体的に判断しなければなりません。裁判例では懲戒事由に該当するのは,「重大な経歴の詐称」に限られると考えられています。ここでいう「経歴」とは「最終学歴」や「職歴」,「犯罪歴」などです。そして,「重大な経歴」の詐称とは一般的に,その経歴詐称が事前に発覚すれば,会社がその労働者と契約を締結しなかったか,少なくとも同一条件で契約を締結しなかったと認められ,かつ,客観的にみてもそのように認めるのが相当な場合(つまり一般の会社でも同様の判断をしたといえる場合)をいいます。
ご相談のケースでは,当該社員が偽った経歴の部分について貴社は採用時に重視していなかったとのことですので,懲戒解雇事由である「重大な経歴の詐称」には該当しないと考えられます。よって,懲戒解雇をすることは難しいと言わざるを得ません。もっとも,懲戒事由の定めにより,懲戒解雇より軽い懲戒処分を行うことが可能な場合もあります。

法律相談受付 TEL:0120-3131-45

POINT

  • 就業規則に経歴詐称が懲戒事由として明記されていることが前提となる
  • 重大な経歴の詐称があった場合はないと懲戒処分を行うことは難しい
  • 採用時の資料などを調査して事実認定を行う
  • 処分の量定は,詐称した経歴が与える影響,動機,入社後の勤務態度等を考慮して決める

解説

1 経歴詐称とは?

経歴詐称とは,労働者が,採用時に,履歴書への記述や面接などを通して会社に申告する自らの学歴,職歴,犯罪歴の有無などに虚偽があった場合をいいます。

職歴や学歴、資格取得などを偽る経歴詐称は、労働者の適正配置や人事管理等に多大な支障を来す行為です。また、労働契約の基盤である信頼関係を破壊するものでもあります。そのため、経歴詐称については、懲戒解雇事由として規定されていることが一般的です。

2 「重要な経歴詐称」でないと懲戒解雇は出来ない!

もっとも、いかなる経歴詐称もすべて懲戒解雇相当ということではなく、経歴詐称による解雇が有効とされるためには、「重要な経歴の詐称」に該当することが必要とされます。

「重要な経歴詐称」とは何かというと、一般論としては、(1)その経歴が当該労働者の採否に決定的な影響を与えること、すなわち、真実の経歴が申告されていれば、その労働者を採用することはなかった場合であって、しかも、(2)そのような事実があれば採用しないということに社会的な相当性があること(つまり,他の会社でも採用しなかったといえる場合)が要件だとされています。
具体的には,採用面接時の着目度合い,その詐称の内容や本人の職務,入社後の状況などを踏まえて検討をすることになります。

3 経歴詐称が懲戒処分の対象となる具体例

3.1 学歴詐称

例えば,高卒の学歴を「大卒」と過大に申告をして詐称していた場合,それに伴い採用時の貸金が業務等の待遇も異なることも多く,業務に影響を与えかねないといえ,懲戒処分の対象となり得ます。

また,逆に,大卒の学歴を高卒であるといわば過小申告した場合でも,懲戒処分の対象となりえます。例えば,採用時に社員の学歴や年齢構成のバランスを図るために会社が高卒者のみを採用することを明確な方針としていたような場合には,大卒であるにもかかわらず高卒と偽って採用されることは,会社の方針に明確に反することになります。その場合は懲戒解雇も許されるといえるでしょう(同旨 スーパーバッグ事件 東京地裁昭和54年3月8日判決(労判320号43頁))。

また,出身大学を詐称する場合も,かかる詐称がなければ採用されることはなかったであろうとみられる場合は,懲戒処分の対象となります。

卒業学部の詐称についても,専門性の高い業務との関係で,卒業した学部の専門性に着目した採用を行った場合には,懲戒処分の対象となります。

参考裁判例


スーパーバック事件(東京地判昭55.2.15 
大卒を高卒と申告し,三社での勤務歴を秘匿していた従業員を,「経歴を詐りその他の詐術を用いて雇用された場合」との懲戒事由に該当するとして懲戒解雇した事案で,懲戒解雇を有効と判断した。
川崎製鉄所事件(神戸地判昭30.6.3 
「新制高等学校二年中退」を「新制中学校卒業」と申告した従業員を,「年令住所経歴扶養家族数等雇入れの際の調査事項を偽りその他不正の方法を用いて雇い入れられた者」との懲戒事由に該当するとして懲戒解雇した事案において,懲戒解雇を無効と判断した。

3.2 職歴詐称

職歴は,とくに中途採用の場合,採用を判断するにあたり重要な情報です。なぜなら,その労働者を採用するかどうかの決定的な動機となることに加え,採用後の業務内容や貸金設定にも大きく影響するからです。

したがって,職歴詐称は懲戒処分が認められる余地が大きいといえます。量定としては懲戒解雇・諭旨解雇が認められる余地も大いにありますが,それより軽い降格・停職処分や普通解雇による対応も考えられます。

参考裁判例


ゲラバス事件(東京地判平16.12.17) 
職務に必要なJAVA言語のプログラミング能力がほとんどなかったにもかかわらず,その能力を有しているかのような職歴を経歴書に記載し,採用面接時にも同趣旨の説明をして,ソフトウェアの研究開発や製作を行う会社に採用された従業員を,経歴詐称を理由に懲戒解雇した事案において,懲戒解雇を有効と判断した。
生野製作所事件(横浜地川崎支判昭59.3.30 
溶接の熟練工の雇入れを目的としていた会社に対し,労働者が面接時に職歴欄記載の企業において一貫して溶接作業に従事していた旨虚偽の事実を述べ,また,実際に従事することとなる作業の内容をみせたところ「これなら自信がある」と述べたため同会社に採用されたものの,実際には溶接の熟練工として期待された技能を著しくかけ離れた技能しか有しておらず,採用後の現実の業務に種々の支障が生じさせた労働者を諭旨解雇した事案において,諭旨解雇を有効と判断した。
北海道宅地建物取引業協会事件(札幌地判平23.12.14) 
税理士登録をしていた事実を履歴書に記載しなかった労働者を,経歴詐称を理由に譜責処分をした事案において,懲戒処分を無効と判断した。
X社事件(岐阜地判平25.2.14) 
採用直前の3カ月間,風俗店に勤務していたことを履歴書の職歴欄に記載しなかった労働者を懲戒解雇した事案において,軽微な経歴詐称であるとして懲戒解雇を無効と判断した。

3.3 犯罪歴

採用後に犯罪歴が発覚した場合,犯罪歴のある者の採用などはとんでもない,即時解雇をしたいと考える会社も多いものと思われます。

しかし,犯罪歴があることを隠していた場合も経歴詐称といえますが,職歴詐称のように労務提供や賃金の評価に重大な影響を及ぼすとはいえない場合も多くあります。

例えば,飲食店のコックとして採用した者が,過去に酔った上で他人に暴行してしまった前科があったとしても,そのことで採用不採用の決定,採用後の賃金等の条件,コックとしての業務等に支障が生ずるとは考えにくく,懲戒処分を行う必要性も認められないでしょう。

しかし,犯罪歴の内容によっては,他の従業員の動揺を招く可能性が十分に考えられます。たとえば,女性が多く働いている職場において,男性従業員に過去に性犯罪歴があることが判明すれば,女性従業員の業務遂行に悪影響を与えることは明らかです。このような職場では,性犯罪歴がわかっていれば採用しなかったといえるでしょう。

このように,犯罪歴詐称については,犯罪の内容や性格等によって,実際の業務や企業秩序にどの程度の影響を与えるのかを十分に吟味した上で,懲戒解雇,普通解雇等を検討することになります。

参考裁判例

メッセ事件(東京地判平22.11.10) 
名誉棄損罪で服役をしていた事実を隠し,その期間海外において経営コンサルタント業に従事していたと虚偽の申告をしていたことが経歴詐称にあたるとして懲戒解雇した事案において,懲戒解雇を有効と判示した。

豊橋総合自動車学校事件(名古屋地判昭56.7.10)
女性教習生と不倫関係となったことや採用時より約18年前の刑罰歴(窃盗罪で懲役1年6月執行猶予3年の刑に処せられ,その後窃盗罪で懲役8月の刑に処せられ,従前の執行猶予が取り消され,各刑に服した事実)を秘匿して雇用されたことを理由に懲戒解雇をした事案において,懲戒解雇を無効と判断した。

3.4 病歴

病歴詐称による懲戒処分について,明確に論じた裁判例はいまのところありません。
労働者の病歴は極めてセンシティブな情報であり,採用選考の際,その全部または一部が秘匿されていることがあります。
しかし,労働者が健康であることは,重要な採用条件といえます。人材を募集をしている業務の内容によっては,応募者の健康状態によっては採用不採用の決定や雇用条件などにも影響を及ぼすといえます。
また,会社には採用の自由及びそれに伴う調査の自由が認められており,採用時において,病歴と現在の健康状態を確認することは可能です。
よって,病歴の詐称によって,入社後の業務遂行や配置に支障をきたすような場合は,病歴詐称を理由に懲戒処分を行うことも十分可能であると考えます。

実務ポイント...採用時に病歴を確認すべし


最終学歴や職歴,賞罰に加えて採用選考時に必ず確認しておきたいのが,病歴と現在の健康状態です。健康であることは,重要な採用条件であり,病気のために労働契約で約束した労務提供に支障をきたすこともありえます。そこで,企業としては,採用する前に健康診断を実施して健康状態を把握するとともに,再発の可能性がある病歴については十分に質問をしておくべきでしょう。

4 経歴詐称によるトラブルは採用時の調査で予防する

対応方法

1 調査(事実及び証拠の確認)

まずは,以下の事実及び証拠を調査・確認する必要があります。

調査するべき事実関係

□ 詐称された経歴の内容
□ 採用の採否,雇用条件,配置等に与えた影響
□ 採用過程における重視した程度
□ 採用過程における発見の難易,詐称の計画性・悪質性
□ 採用後の勤務状況,職務内容及び評価

調査の際に収集する資料

□ 履歴書,職務経歴書,病歴報告書等採用過程で労働者から提出された資料
□ 当時の募集要項,求人票
□ 採用面接時のやりとりの記録
□ 採用決定にかかる社内決裁書類,選考過程の記録
□ 採用後の人事記録,人事考課記録

量刑・情状酌量事情

□ 詐称した動機・経緯に酌量の余地があるか
□ 詐称による業務上の支障の程度の軽重
□ 懲戒処分の事情聴取への対応・協力の誠実さ
□ 反省の態度の有無
□ 入社後の勤務態度
□ 詐称が他の社員に与える影響の大小
□ 会社における過去の同種事案での処分例との比較
□ 他社及び裁判例における同種事案との処分例との比較

2 適正手続の履行

弁明の機会の付与

事情聴取と共に,当該社員に対して弁明の機会を付与します。面談又は弁明書の提出の機会を与えます。

懲戒委員会の開催

就業規則等において懲戒委員会を開催することが必要な場合は,同手続を行います。

3 処分の決定及び通告

決定した処分を当該社員に対して通告します。
明確にするために文書によって通告することが一般です。

4 労働者との交渉

懲戒処分に不服のある労働者は異議を唱えて争う姿勢を示すことがあります。具体的には処分の撤回や賃金の請求を行うことがあります。この場合,まずは,法的措置に進む前に,労働者と交渉して,貴社の望む結果が得られるようにします。裁判に訴えられる前の交渉の時点で解決できれば,貴社にとっても早期解決のメリットがあります。

5 裁判対応

労働者との間で交渉による解決が図れない場合は,労働者は自己の権利の実現を求めて裁判を起こす可能性が高いと言えます。具体的には,仮処分手続,労働審判手続,訴訟手続などがありますが,労働者が事案に応じて手続を選択して,自己の請求の実現を目指すことになります。貴社としては,かかる労働者の法的請求に適切に対応する必要があります。

経歴詐称と懲戒処分に関する参考裁判例

採用時に自己に不利益な経歴の自発的告知義務を否定した裁判例

学校法人尚美学園事件

東京地判平成24・1・27労判1047号5頁

前勤務先におけるパワー・ハラスメント等の不告知等を理由とする解雇を無効と判断している。

経歴詐称した社員への損害賠償請求を認めた裁判例

KPIソリューションズ事件

東京地判平成27・6・2労経速2257号3頁

中途採用労働者の経歴詐称を理由とする解雇につき,労働者は重要な職歴・職業能力等を詐称した結果,会社業務に混乱をもたらした等として有効と判断するとともに,会社による損害賠償請求についても,労働者が経歴詐称を前提に賃金を増額させたことから,詐欺による不法行為の成立を認めて一部認容している。

判決は,経歴詐称の解雇事由該当性について,労働者の真実告知義務を前提に,使用者が重視した経歴,詐称経歴の内容,詐称方法,詐称による企業秩序への危険の程度等を総合的に判断する必要があるとの慎重な判断方法を示しており,説得力がある。

労働問題.comの対応

1 経験豊富な弁護士に相談

労働問題は適用される法律が難解で事実関係が極めて複雑であり,また,貴社が採るべき対応策はケースバイケースで決めざるを得ません。貴社独自で調査の上でのご対応が,時に誤った方法であることも多分にございます。
そこで,まず,労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士にご相談下さい。ご相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いのが実際ですので,トラブルが少しでも生じましたら出来るだけ早期にご相談されることをお勧めいたします。
労働問題.COMでは,常に労働問題を専門的に取り扱う経験豊富な弁護士が直接対応させていただいております(原則的に代表弁護士である吉村が対応させて頂きます。)。裁判のリスクを踏まえながら,法律上の問題点を指摘しつつも,抽象的な法律論に終始することなく,貴社が採るべき具体的な対応策を助言いたします。早期のご相談により紛争を未然に防止することが出来た事例が多数ございます。また、その後の交渉・裁判対応においても有利な対応を取ることが出来ます。

2 継続的なご相談・コンサルティング

労使間のトラブルは一時的なものではなく,長期化することがしばしばあります。ケースバイケースに採るべき対応策や確保すべき証拠も異なりますし,時々刻々と状況が変わっていき,その都度適切な対応をとることが必要です。この対応が間違っていた為に,その後の交渉や法的措置の段階で不利な状況に立たされることもままあります。
労働問題.COMでは,経験豊富な弁護士が,継続的なご相談を受けコンサルティングを行います。初期の段階より貴社にとって有利な対応をアドバイスしていきます。それにより,その後の交渉・法的措置にとって有利な証拠を確保でき,適切な対応をとることで,万全の準備が出来ます。また,継続的に相談が出来ることにより安心して他の日常業務に専念していただくことができます。

3 貴社を代理して労働者(弁護士,労働組合)と交渉いたします。

労働者の対応は様々ですが,貴社へ要求を認めさせるために,様々な働きかけをする事が多いのが実情です。労働者が弁護士や労働組合を介して,会社に対し各種の請求を行い,交渉を求めることはよくあることです。弁護士や労働組合はこの種事案の交渉のプロですので,貴社独自で臨むことで,あらぬ言質や証拠をとられ,本来了承する必要のない要求まで認めさせられることもしばしばです。貴社独自でのご対応は,一般的には困難であることが多いといえます。
そこで,労働問題.COMでは,労使間の交渉対応に精通した弁護士が,貴社に代わって交渉の対応を致します。具体的には,貴社担当者から詳細なヒアリングを実施し,証拠の収集等の準備を行った上で,弁護士が法的根拠に基づいた通知書を出し,適切に交渉することで,貴社にとって有利な結論を,裁判を経ずに勝ち取ることも可能となります。

4 裁判対応

労働者が労働審判,仮処分,訴訟などの裁判を起こしてくる場合が近時急増しています。かかる裁判への対応は法律で訴訟代理権を独占する弁護士のみが対応することができます。
但し,労働問題を適切に対応することができるのは労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士に他なりませんが,労働問題は極めて特殊専門領域であるため,経験実績がない又は乏しい弁護士が殆どである実情があります。
労働問題.COMでは,労働事件を専門分野とし,裁判対応の豊富な経験実績を有する弁護士が常時対応させていただいております。貴社に対し,最善の弁護活動をお約束いたします。

弁護士費用はこちら

※本サイトに関する知的財産権その他一切の権利は、弁護士吉村雄二郎に帰属します。また、本サイトに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。

法律相談受付 TEL:0120-3131-45

ご挨拶 / 弁護士紹介 / 安心の費用 / 地図・アクセス / 無料法律相談 / 法律相談の流れ / よくある質問 / 解決実績 / お問い合わせ