減給制裁

賞与からの減給制裁

社長
当社の従業員Aは,過失によるミスで取引先から契約解除され,会社に対し100万円を超える損害与えました。そこで,賞与を不支給とする減給制裁を行おうと思います。減給には,月例賃金の10分の1以下という制限があるようですが,賞与についてはどうなのでしょうか。もし,制限があるなら査定で不支給にしようと思うのですが,可能でしょうか。
弁護士吉村雄二郎
懲戒処分を課すにあたっては,一種の「制裁罰」を課すのですから,就業規則に該当する懲戒事由に対して定められた種類の処分であること,行為と処分が均衡していること,二重処分禁止の原則に反しないこと,適正な処分手続きをとること等の,遵守すべき懲戒処分の原則に基づく制限があり,これらの原則が守られていないと,懲戒権濫用として,処分が無効となります。
さらに,懲戒処分としての「減給」を行う場合,労基法91条が「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え,総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない」と規定しており,法令上の制限があります。賞与も賃金の一種です(労基法11条)ので,賞与から減給を行う場合も,労基法91条の制限を受けます。
次に,支給対象期間の成績考課に基づく査定として,賞与を減額する場合にも,減額の制裁として制限されるのでしょうか。この点,裁判例では,成績・勤怠にかかわらず,一律に支給される部分を減額することは,労基法91条に反するとしながらも,考課査定分の範囲内では,使用者に裁量権を認めています。したがって,賞与の支給額の決定方法として,考課査定にかかわりなく一定額を一律に支給すると規定されている場合には,その額から減額することは,「減給の制裁」にあたるものの,賞与の支給額がすべて考課査定に基づき決定されるような場合には,賞与額すべてが考課査定の範囲内となり,考課査定の結果として賞与を不支給とすることもあり得ると考えます。ただし,あまりに軽微な事案にもかかわらず,賞与を全額不支給とすることは,使用者の裁量権の範囲を超えたものとして労基法91条の趣旨に反し,許されませんので,客観的な考課査定の範囲内か否かを慎重に検討する必要があるでしょう。

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