年俸と残業代・欠勤控除

年俸制社員の欠勤控除や残業手当の計算方法

社長
当社では,これまで管理職のみに適用していた年俸制を一般社員にまで拡大しようと考えています。当社の賃金体系は,従来の基本給部分の16倍を年俸として,月々は年俸の16分の1に加え,家族手当や住宅手当,単身赴任手当などを支給し,6月と12月に年俸の16分の2に業績評価分を上乗せした額を賞与として支給します。ところが,一般社員については,年俸制を採用しても残業手当が必要であると聞きました。必要であるとして,算定基礎賃金は,どのように算出するのでしょうか。また,遅刻や欠勤についてもそれに相当する時間や日数分の控除は可能でしょうか。さらにその場合の単価は残業と同じでしょうか。
弁護士吉村雄二郎
年俸制は,当該労働者の年収を契約にて決し,それを毎月払いの原則(労基法24条2項)を充足
するような形で配分し,そこで定められた期日に支払っていく制度です。就業規則および労働契約において定めれば,自由に採用し,一般社員に適用することも可能です。もっとも,新たに年俸制を導入する場合には,その導入に反対する労働者との関係では,就業規則の不利益変更の問題となります。就業規則および労働契約で内容を定めることができますので,家族手当その他の手当を支給することも可能です。
年俸制を採用したとしても,法定労働時間を超える労働が現実に行われた場合には,残業手当の支払いが不可欠です。裁判例においても,年俸制適用者には時間外割増賃金は支給しない旨定めた就業規則の条項が無効とされています。
残業手当その他の割増賃金を算出するにあたっては,家族手当,通勤手当,別居手当,子女教育手当,住宅手当,臨時に支払われた賃金および1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金については,その算定基礎から除外することが認められています(労基法37条4項,労基則21条)。注意を要するのは,賞与として6月と12月に支払われている年俸額の16分の2の額に業績評価分を加えたものが,割増賃金の算定基礎となるのかという点です。年俸制を導入していて,「賞与」と呼ばれている支給分の金額があらかじめ決定されている場合においては,本来の賞与としての性格は認められず,割増賃金算出に際しては算定基礎に算入しなければなりません。ご質問のケースにおいても,6月および12月に賞与名下に支払われている年俸額の16分の2の額については,支給額が決定している以上,賞与として扱うことはできず,算定基礎に除外されるのは上乗せの業績評価分のみとなります。
年俸制適用者について,ノーワーク・ノーペイの原則を適用するか否か,適用しない場合であっても,欠勤等の場合に賃金をどの程度支給することとするのかといったことは,それぞれの制度の決め方によるのであって,年俸に関する規程に定めがあれば,それに従うことになります。したがって,ご質問にあるように,遅刻や欠勤についてもそれに相当する時間や日数分の控除は可能です。

年俸正社員の残業代

当社では,正社員の大半については年俸制を採用しています。年収総額を毎年労使で決定し,それを14分割して,毎月14分の1を支払い,7月・12月には賞与として14分の1ずつ支払うという内容です。最近,この制度の適用を受けている一般社員から,賞与の額についても,割増賃金の算定基礎に組み入れて計算すべきではないかとの指摘がありました。会社としては,あくまで「賞与」なので算入する必要はないものと考えているのですが,この解釈でよろしいでしょうか。

労基法は年俸制を導入しているからといって労働時間に関する規定の適用を除外することを認めていません。年俸制を採用したとしても,時間外,休日および深夜労働に対する割増賃金の支払い義務が免除されることにはなりません。
年俸の中に割増賃金を含んでいるというためには,その分がいくらであり,それが何時間分の時間外労働等に対する対価であるのかを明確にしておかなければなりません。それがなされていないときは,別途割増賃金を支払う必要があります。また,一定時間分の割増賃金として一定の金額を包含していることを明示している場合であっても,実際の時間外,休日ないし深夜労働が,そこで定められた時間を超えるときは,その超えた時間については,通常の計算方法に従って算出される割増賃金を支払わなければなりません。
年俸制であっても,賞与が,算定対象期間中の会社の業績および労働者の成績によって支給の有無や額が決せられる通常の「賞与」であるならば,「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」として労基法所定の割増賃金の算定基礎から除外できます(労基法37条4項,同法施行規則21条5号)。
しかし,年俸制を採用している場合で,「賞与」と呼ばれている支給分の金額があらかじめ決定されている場合においては,本来の賞与としての性格は認められず割増賃金の基礎となる賃金に算入すべきです。

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